Internetを活用した教育実践に関する一考察
三重県立名張西高等学校 英語科 西川俊朗
情報科 中野由章
1. はじめに
政府は今後2年以内に、全国の公立小・中・高等学校の全てをInternetに接続するとしている。しかし、Internetをどのように学習に活用するかという具体的な点に関して、その方法や効果についての疑問が現場にないわけではない。
本校においては昨年度からInternet上のサービスを利用した授業を展開しており、本年は情報科に留まらず、英語科・普通科の一部、およびPTAや中学生対象の公開講座においてもこれを利用した授業実践を行っている。これら具体的な事例を紹介し、その意義について考察を加える。
2. Internetを学校教育に導入する意義
Internetを学校教育に導入することによって、教科書や教員から伝達される知識を受動的に学習するのではなく、学習者中心の能動的で、「調べ学習」のような探索的な学習を行うことが可能となる。また、他校の生徒と情報を共有・交換することにより、互いに影響を与え、連帯感を育む結果となる。それは情報教育に留まるものではない。
例えば、英語教育において、Internetでの使用言語は各国の母国語の他、世界共通語としての英語が一般的なので、英語を理解し、表現する能力を養うための活きた素材へリアルタイムに触れることが可能になる。世界中の多くの人々を具体的な対象として、情報のやり取りができ、活きたコミュニケーションを行おうとする学習者の意欲を高めることができる。これは、英語で積極的にコミュニケーションを図ろうとする態度を育てることの動機付けにもなる。
その他、地理歴史、公民、理科教育等、あらゆる教科において活用することができるであろう。
3. Internetの提供する代表的なサービスとその活用法
代表的なものを以下に挙げる。
- e-mail:国境を意識しない、電子メールの読み書き学習、意見交換
- NetNews:世界に流れる各専門分野に関する記事の購読
- telnet:遠隔地にあるコンピュータへのアクセス
- ftp:公開されているプログラムやデータの入手
- WWW:マルチメディア情報を検索しながら問題解決させる課題学習
自己表現としてのホームページ公開
- Video Conferencing:相手の顔を見てリアルタイムに「聞き・話す」ことによる情報交換
4. 実践事例
a. e-mailを活用した英語学習(英語科2年生)
- netiquette(= net + etiquette)についての学習
- 相手校については姉妹校のPhoenix High School, Oregon, USAの他、Intercultural E-mail Classroom Connections (http://www.stolaf.edu/network/iecc/)において条件に合う学校 (Fort Loudoun Middle School, Tennessee, USA / Madison High School, Iowa, USA / San Juan High School, Utah, USA, etc.) を数校選択した。
- 生徒の英語レベルと知識レベル、交信の頻度、内容、個人単位かグループ単位かなどを相手校の教員とe-mailで相談した。
- 「何を書くべきか」について、give and takeの姿勢を大切にすることを指導した以外は、原則として生徒に任せた。
- 「どのように書くべきか」について、「導入、展開、結論」の流れやパラグラフ構成などについては教員が解説を加えた。
- 最初は本校の生徒同士(intranet)でe-mailを交換した。
- 毎回「交信report」に記入させた。
- トピックを相手校と統一し、内容を深めた。
- 最後に交信内容の報告会を行った。
b. e-mailを活用した情報交換(情報科3年生、PTA、中学生)
- intranetでメール交換を行い、電子メールの雰囲気を味わった。
- 本校から姉妹校のPhoenix High School, Oregon, USAへ留学している友人と電子メールでお互いの情報を交換した。
c. WWWを活用した英語学習(英語科2年生、情報科3年生)
- scanning, skimming練習として、いくつかURLを示し、ハンドアウトに沿って情報の「拾い読み」の練習をさせた。
- アーティクルの「調べ学習」として、英字新聞、雑誌、CNN, BBC, ABC, USA TODAYなどのURLを紹介し、アーティクルを1つ選ばせる。→次の授業で発表→討論
- Yahoo!やInfoSeek等の検索エンジンに、自分の興味あるキーワードを入力させ、ピックアップされたサイトを和訳した。
d. WWWを活用した情報検索(情報科・英語科・普通科3年生、PTA、中学生)
- 各自興味ある分野のサイトを、Yahoo! Japanやgoo等の検索エンジンでサーチし、その内容をチェックした。
e. WWWを活用した情報発信(情報科・普通科・英語科3年生、PTA)
- 情報科「課題研究」において、校内、および名張駅周辺の障がい者アクセシビリティマップを作成し、intranetおよびInternet上にて公開した。
- 自己紹介ページを作成し、親しい者同士リンクをはり、intranet上で公開した。
5. まとめ
- 活きた素材にリアルタイムに触れられるという点で、Internet活用の可能性は無限大である。
- まだごく一部のサービスしか活用していないが、受講者の反応は良好で、積極的に取り組んでいる。
- 海外のリソースを利用する場合、英語のレベルに注意する必要がある。
- 教員の役割の変化:講義者(情報の伝達者)→演出者(facilitator, supporter)
- 個別のテーマに取り組むことで、各自の進度、レベルに合った学習を展開できる。
- 少人数講座であれば、机間巡視をしながら、生徒とのやりとりが活発にできるので、情意フィルターを下げた(素材に対する「心の構え」を取り除いた)状態で取り組める。
- 「コミュニケーションを図ろうとする姿勢」を自然な形で引き出しやすい。
- "learning by doing"の姿勢で、4 skills(speaking, listening, reading, writing)を統合した活動の場ができる。
- 本稿では「授業内での活用」に絞ってまとめたが、教員が教材収集、教材研究など様々な段階でInternetを活用することができる。
- 教員自身も生徒と共に「Internetで遊ぶ」という遊び心を持つことが大切である。
- Internetはあくまでも「道具」に過ぎず、使うことに振り回されないで、「何ができて、何が生徒の学習を助けるのか」という使い方を見極めることが重要である。
- やってみてはじめてわかることや、意図していなかった副次的な教育効果があらわれる場合が多々あり、先ず実践してみることが重要である。次第に問題点も現れるであろうが、それについてはそれから対応しても大抵の場合遅くはないと考える。
6. 今後の課題
今更ながらであるが、3年間を通した授業計画の重要性を痛感している。全教科目にわたる総合的なシラバスデザインが肝要である。
回数を重ねてきた時に、e-mail交換の内容をどう深めるか、「課題解決学習」における課題の設定方法をどうしていくかといったようなことについて、継続して検討していく必要がある。
海外とのVideo Conferencingを考えた時、時差が大きな問題となってくる。東南アジアやオセアニア諸国に相手校を探すと都合が良いので、可及的速やかに実践してみたいと考えている。
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